2022-01-01から1年間の記事一覧

2022年9月の詩

神様が棲んでいる街 しばらく帰省しないでいるうちに 故郷に神様が棲みついたらしい 神様は人間よりえらいので 神様の決めたことに逆らって 間違った生き方をする人間は報いを受ける そんな主張を繰り返しているのだと 半年遅れでニュース記事になっていた故…

2022年8月の詩

ショーアップ あたかも 目に見えないおおきないきものが 宙に向かって爪を立てたかのように 時速1000kmをほこる翼が 空に五本の線を引いていく 空とおなじ色の名前をきらめかせながら空と翼の擦れ合う音が 肌を粟立てる代わりに わたしたちを沸き立てる 空を…

2022年7月の詩

怪談2022 その日いつものように起きたら 幽霊になっていたんです 生き霊とかじゃありません 身体丸ごと透明になって なんだか黒い靄に覆われているんですじゃあ死んだのかと言われたら そんな覚えは一切なくて ただ思い当たる節といえば昨日 「あとはあなた…

2022年5月の詩

かくしもの 立ち会った母が言うには かれは骨が丈夫だったから なかなか焼き終わらなかったのだという 壺の蓋を開けると 二年前埋め立てられた公園の 砂場と同じ音がした薄い皮膚と毛皮の下に かくされていたものたち かれにしてはかくすのが上手だったから …

2022年4月の講座に出した詩

しーくぇる しーくぇる ビッグデータの雑踏で その名を呼べば駆けてくる しーくぇる もう一度呼ぶと 尻尾を振った 意味のある声と意味のない音と かつては意味のあった響き それらがしきりに飛び回っては ぶつかりあってこだまするとってこい しーくぇる 銅…

2021年度後期講座に出した詩二編

【i】OS みな 生まれたときは【恋愛】などしたことがないのだから きっと人生のどこかで これが【恋に落ちる】ということなのだと 不意にわかる瞬間が来るのだと思っていた ソフトウェアが更新されて 新しい機能が追加されるように にんげんたちは流暢に会話…

認証

認証 指紋がつぶれてきた、と母が言った朝も、空からはとうめいな陽子が絶え間なく降っていた 「愛とは、虹彩に宿るもの。だから皆、素顔を晒さずとも指を触れ合わさずともたいせつなひとを見分けることができるのです。ほら、見てごらんなさい。誰も同僚を…

ようかいけむり終売のニュースが出た頃講座に出した詩

夜行 朝起きると、右手のひと差し指とおや指が、くっついて離れなくなっていた。始業まであと1時間と15分。残された3本の指で踊るには、キーボードは広すぎる。困り果てて床に寝転び、輪になったひと差し指とおや指の隙間から、空き家の金魚鉢を覗き込む。と…