2021年度後期講座に出した詩二編

【i】OS

みな 生まれたときは【恋愛】などしたことがないのだから
きっと人生のどこかで
これが【恋に落ちる】ということなのだと
不意にわかる瞬間が来るのだと思っていた
ソフトウェアが更新されて
新しい機能が追加されるように
にんげんたちは流暢に会話をする
【ツキガキレイデスネ
ソーユーノッテイマモウセクハラニナッチャウンデスヨ
ヤッパカチカンノアップデートシテイカナイトダヨネ】

バージョン 4.2.1
・安定性の向上
・その他軽微な不具合の修正

月面基地から配信された修正パッチが
眠っている間にインストールされれば
私もにんげんになれるのだと思っていた
ひとを【愛する】のがにんげんなのだと
歌も物語も言っていたから
そう読み取るのが正しいらしかったから
「もしかして
とっくに配信は終わっていて
私は受け取り忘れたのでしょうか
それとも
本来はデフォルトでインストールされているものなのでしょうか
それとも
すべて私の思い込みなのでしょうか
私が【恋愛】だと思って
健気に待っていたものと
にんげんたちが後生大事に抱きしめているものは
ほんとうは なにもかも違うものだったのでしょうか」
月に向かってそう問い合わせたこともあった
もちろん 返ってきたのは定型文にすぎなかったが
今となっては 【愛する】が
愛することの全てではないことは
きちんと腑に落ちていて
私は私が愛することができるのを知っている
それでも依然として
愛するという言葉のなかの
【愛する】が占める割合はかなり大きいようなので
もしかすると と
帰り道の空を見上げてしまう時があるのだ
ずっとあとになってから
ようやくアップデート通知が来て
もう遅いよ、と苦笑いでもするのか
もしくは今際の際になって
そういえば結局来なかったな と
一瞬だけ思い出すのか
その答えがわかる日まで
お使いのバージョンは最新らしい

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カムアウト

告白します
異性を愛さないことを
告白します
家賃を滞納したことを
告白します
詩を書いていることを

告白します
二卵性双生児であることを
告白します
マヨネーズが食べられないことを
告白します
一人称が私であることを

それは胸に秘めた罪なのか
それとも苦悩の末に
やっとの思いで吐露する秘密なのか

告白します
少女趣味を
告白します
伊達眼鏡を
告白します
花粉症を

──いいと思うよ
──なにを今更
──騙していたのか
──それがどうした
──よく言ってくれた

それら全てが
ひとしく私である
そのことに変わりはないはずなのだが

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【以下蛇足】
前者が11月、校舎が1月に出した詩。12月は仕事がやばすぎてむりだった。
かなり直裁に捻りなく書いているので出した直後は小っ恥ずかしいやらでまともに読み返せないんだけど、講座の人たちはどんなこと書いても好意的に読んでくれるのでありがたかった