2022年9月の詩

神様が棲んでいる街


しばらく帰省しないでいるうちに
故郷に神様が棲みついたらしい
神様は人間よりえらいので
神様の決めたことに逆らって
間違った生き方をする人間は報いを受ける
そんな主張を繰り返しているのだと
半年遅れでニュース記事になっていた

故郷と言ったものの
そう呼ぶことに違和感がないではない
山にも川にも海にも遠く離れた安全で住みやすい土地
祭と呼ばれる行事はあるにはあったが
何を祀るというわけでもなく
新興住宅地の区切られた公園で
ペットボトルの神輿を担いでいた

"その時代には今と同じような混乱が大変起きました。それで一瞬にして、その町は灰になりました"

記事に載っていた名前には覚えがあった
私がまだその街の住民だったころ
校門前で神様の功績について書かれた本を受け取ったり
塾のホワイトボードに日替わりで神託が書かれたりしていたから

神様について母にLINEすると
《しょーもないやつなんだよ 困ったもんだ》と返ってきた
そんな困ったもんをどうして棲みつかせてしまったのかとは思ったが
それよりもまず母が神様のことを
しょーもないやつと言ったことに安堵していた

"間違った生き方をすれば間違った報いがくるということでございますよ。簡単です"

確かに神様を神様として扱う人より
しょーもないやつだと相手にしない人の方がずっと多かった
というより私もそうだった
神様をしょーもないやつと言いながら
正しい生き方ができているかわからないので
正しい生き方ができているかどうかなんて気にしたこともない顔をしていた

今や神様は駅前に事務所を構え
自費出版の創世記を配っているのだという
一方私は街を出てから
何らかの学問を修めるなどしていたが
正しい生き方が正しい理由も
間違った生き方が間違っている根拠もついには見つけられず
かろうじて定義書.zipだけが手元に残った

その街の住民でこそなくなったが
解凍した定義書には神様の位置情報も入っていたので
私は私の位置から神様を見据えることができる
掘り返した言葉を携え
ここにいるということを
真顔で 逃げも隠れも諦めもせず

《そういえば次いつ帰ってくるの》
擦られたマッチのような音がして
神様についての会話は一段浮き上がる
《次の祭の時期には帰るよ》と返す代わりに
ペットボトルの絵文字を送ると
吹き出しの向こうで花火が打ち上がった