2022年4月の講座に出した詩

しーくぇる

しーくぇる
ビッグデータの雑踏で
その名を呼べば駆けてくる
しーくぇる
もう一度呼ぶと
尻尾を振った
意味のある声と意味のない音と
かつては意味のあった響き
それらがしきりに飛び回っては
ぶつかりあってこだまする

とってこい しーくぇる
銅像のモデルとなった犬が
最期に瞬きをしたとき
かれの目に映っていたものを
今では野戦病院となっている
図書館の跡地から

せれくと──ふろむ──ふぇあー
しーくぇる
おまえの言葉は躾が行き届いていて
抽象の入り込む余地はないが
それでも会話というものが
人間の手に負えないことに変わりはない

何をと誰のとどこからとどんなが絡まって
解くのに苦労していると
しーくぇる 帰ってきた
ほこらしげに
“なにもなかった”を咥えながら

しーくぇる
おまえは決して歌わない
木簡の裏に書きつけられた詞章を
とってくることはできるだろうが
少なくともここの世界は
おまえ自身が歌いだすようにつくられてはいない

しーくぇる しーくぇる
わたしたちの誰もがいなくなったあと
おまえは誰に見つかるのか
拾い集めた詩を咥えたまま
まだ探しものに夢中になっているおまえを









〜ここから蛇足〜
シークェルとはSQLといってデータベースに対して色々と命令するための言語のことです 詩ではデータを取ってくるしかできないみたいに書いてますが、実際のところはデータを新しく追加したり削除したり、データベース自体を作ったり消したりもできます

正直プログラミングとかやらん人にはなんのこっちゃという話だと思うんですが、講座の方々は聞き慣れない言葉を使ってる作品でも丁寧に読んでくれるのでとてもありがたい……