2022年8月の詩

ショーアップ


あたかも
目に見えないおおきないきものが
宙に向かって爪を立てたかのように
時速1000kmをほこる翼が
空に五本の線を引いていく
空とおなじ色の名前をきらめかせながら

空と翼の擦れ合う音が
肌を粟立てる代わりに
わたしたちを沸き立てる
空を見上げる顔の
下半分をマスキングしているので
わたしたちは、匿名になれている(のだろうか?)

次の会場へと狙いを定めている翼たちは
事前の打ち合わせ通りに都内を一周したのち
10分ほどで着陸基地に帰り着くことになっている
それは間違いなく平和の証拠で
平和には感謝しなければならない
と 定められている

祝砲が打ち鳴る
今はもう歴史上にいる彼も
きっとマスクをしていたはずだ
でなければ要注意人物として警戒されてしまっただろうから
打ち鳴らすまでは無名
だったはずなのだ
(組み伏せられ
撮影され
移送され
特定され
報道されるまでは)

空の傷口から血が滲んでいる
空の流した血は
決して地上に降ってこない
わたしたちは翼の行き先を辿るのに夢中で
血の落ち先については誰も知らない
かつて崖から飛び降りた人間たちや
落下傘を背負って飛び降りた人間たちの
落ち先を知らないのと同じように